累進帯長10mmの累進レンズの効用

02'04/11記


ファッション用?

 今年3月4月と、ペンタックスとセイコーから、累進帯長10mmと言う、これまでにない累進帯長の
短い内面累進レンズが発売されました。

累進帯長が短くなると、「ユレ・ゆがみが増す」と共に「中間帯が見づらくなる」と言うデメリットがある
一方で、
「下方回旋が楽」
と言う、各メーカーからの説明もありますが、何と言っても
「フレームの天地幅が狭くても、対応可能でフレームの選択幅が広がる」
と言うメリットが、昨今、天地幅が狭いフレームが流行しているために大きく、その対応レンズとしての
位置付けになってしまっているのが現状と思われます。

しかし、技術者の立場からは
「天地幅が狭いフレーム用の対応レンズ」
いわば、単に流行・ファッション用アイテムとして、設計技術の結集体である累進レンズを販売するの
は正直なところ不本意であり、あくまで機能面での

「こういったデメリットはあっても、**様の場合は、こういうメリットの方が上回っているので、
この累進帯長10mmをお勧め致します」


と、ご説明申し上げ販売し、機能面でもご満足頂きながらご使用になって頂きたいものです。

今回は、累進帯長10mmの累進レンズをファッション(天地幅の狭い枠)用とは捉えずに、あくまで機
能面での特徴を生かした処方例をご紹介いたします。



不同視気味の方に・・・

 この短い累進帯長の累進レンズを、「下方回旋が楽」 以外の機能面で生かせるケースは、ズバリ
不同視気味の方です。 つまり、左右の度数差が多少ある方に有効です。

 もっと正確に言うと、垂直方向の経線度数に左右差があると、近用部における上下プリズム
差(光学的斜位)が発生
し、その左右のプリズム差は、累進帯長が長い程多くなり、短い程少なく
なる性質があるので、それを考慮した処方に生かすことができるのです。

これは、例え同度数でも乱視軸が異なると発生する現象で、複視や眼精疲労の原因になりえ、一般
に両眼視を前提とした左右の上下方向のプリズム差は、P1.5 〜 P2.0 迄が限界だろうと言われ
ます。

左右のプリズム差の算出方法は、各垂直経線度数を算出し(斜乱視の場合は、三角関数を使用し
算出)その度数差を、プレンティスの公式に代入します。

プリズム量<P> =
垂直経線度数の差<D> × フィッテングポイントからの距離<cm>


この各々のプリズム量の差が、おおよその左右のプリズム差になります。

※1.フィッテングポイントから近用部までの距離は、ここでは 「累進帯長 + 3mm」 とします。

※2.この左右のプリズム差を算出するには、プリズムシニングの概念は必要ありません。
   プリズムシニングを網羅した計算をしても、算出結果は同量となります。

※3.左右、同加入度数であれば、加入度数も考慮しなくても良いです。
   異加入度数については例2にて。



例1

R = S−5.00              /2.25ADD
L  = S−5.50 C−1.00 Ax30 /2.25ADD

Rの垂直経線度数 = −5.00

Lの垂直経線度数 = COS230×(−1.00) + (−5.50) = −6.25

左右の経線度数差 = −6.25 − (−5.00) = −1.25

累進帯長10mmで、近用部までの距離を13mm(1.3cm)とし、プレンティスの公式へ代入。
左右のプリズム差 = −1.25 × 1.3 = −1.625 ・・・ P1.625

この度数の累進帯長10〜18mmのプリズム差を表すと、以下のようになります。

累進帯長<mm> 10 11 12 13 14 15 16 17 18
左右のプリズム作用の差 1.625 1.750 1.875 2.000 2.125 2.250 2.375 2.500 2.625



 また、装用に問題のない範囲が前提になりますが、左右を異加入度数(マイナス側をプラス側より
強くする)にすることによって、プリズム差を減少させることもできます。

例2

R = S−5.00              /2.00ADD
L  = S−5.50 C−1.00 Ax60 /2.50ADD
(マイナス側であるLの加入度が0.50D強い)

この場合も、プリズムシニングの概念は必要ありませんが、ここではプレンティス式に加入度数を網
羅させた式を用います。

近用部のプリズム量を計算する公式(SEIKOレンズマニュアル掲載式)
近用部プリズム量 = (遠用度数 + 加入度数/2) × フィッテングポイントからの距離

Rの近用部の仮の垂直経線度数 = (−5.00 + 2.00/2)  = −4.00D
Lの近用部の仮の垂直経線度数  = (−6.25 + 2.50/2)  = −5.00D

左右の近用部の垂直経線度数差 = −5.00 − (−4.00) = −1.00D

更に、プレンティスの公式へ代入。
左右のプリズム差 = −1.00 × 1.3 = −1.30 = P1.30

例1とのプリズム差の減少量は、
1.625 − 1.30 = P0.325 と、なります。

※左右のプリズム差を、算出する計算プログラムはこちら