インセット量の算出方法(後編)

01’12/24記


 前回は度数をプラノと仮定(図1)した計算方法をご紹介致しましたが、今回は度数もモーラしたインセッ
ト量についてご紹介致します。


計算プログラムはこちら



図1

 概略を簡単に説明すると、
PDや近用作業距離等、度数以外の全ての諸データは同じ場合で比較すると、プラス度数では、プラノ
よりインセット量は大きくなり、(図2)


図2

マイナスの場合は、逆に小さくななります。(図3)

図3

 これを実際に計算するには、レンズの厚みやカーブ等によっても数値は左右され、かなり高度な知識
が必要であり、厳密な計算を行うには私の数学レベルでは不可能であります。
また、私が探した限りでは、度数をモーラしたインセット量についての計算式の記述は残念ながら御座
いませんでした。
したがって、予め僅かな誤差ならOKとし「近似値を求める前提での計算」と、割り切り「プレンティスの
公式」「三角関数」「逆三角関数」のみの使用で独自に計算してみました。



※1 この計算は、累進とEXを除くバイフォーカル用となります。バイフォーカルの場合、加入度は関係あ
   りませんので遠用度数を代入します。
   累進レンズの場合は、かなり複雑になりそうで、私には根拠をもった計算はしきれません。
   ただし、近用上がり度数を代入することにより、近似値は算出できると思われます。

※2 下記の計算方法により、不具合が発生したとしても、当方は一切関知致しませんので予めご了承
   下さい。



手順を hhhh の中で例を交えながら説明しますと・・・
例1(プラス編)
バイフォーカルレンズ
度数 = S+2.50 C+2.00 Ax30
加入度数 = 2.00ADD(無視する)

角膜から眼球の回旋軸距離 = 13mm
レンズ間距離 = 12mm
片眼PD = 30mm
近業作業距離 = 300mm

1.前編の式を使って、プラノ時のインセット量を算出する。
(式)
インセット量 =
遠用PD・(角膜から眼球の回旋軸 + レンズ間距離)/ (角膜から眼球の回旋軸 + 近業作業距離)
より

30×(13+12)/(13+300)  ≒ 2.396166mm ・・・・・ プラノ時のインセット量

2.プラノ時のインセット位置のプリズム量を、プレンティスの公式を用い計算。(斜乱視の場合は予め三角
  関数にて水平方向の経線度数を求めておき代入する)する。
2.00 ( sin2 30°) + 2.50 = 3.00 ・・・・・ 水平方向の経線度数
(累進の場合は、更に加入度数を足す)

2.396166/10=0.2396166 ・・・・・ mm を cm に変換
プレンティスの公式より
P = 3.00 × 0.236166
= 0.7188498△ ・・・・・ プラノ時のインセット位置のプリズム量

3.インセット量を、プラノ時のインセット位置に仮に設定した場合の近用ターゲットへの視線のズレ量を計
  算する。(図4)

図4
図1を追いながら説明すると・・・

近用作業距離300mm + 角膜から眼球の回旋軸13mm = 313mm ・・・・・ /OCを算出

これより、/BDを算出
atan(30/313) ≒ 5.47488 ・・・・・ ∠Oを算出
sin5.47488 = 30 ÷ /OD
/OD  314.43464 ・・・・・ /ODを算出
12+13 = 25 ・・・・・ /OAを算出
cos5.47488 = 25 ÷ /OB
/OB  ≒ 25.11457 ・・・・・ /OBを算出
314.43464 − 25.11457 = 289.32007 ・・・・・ /BDを算出

289.32007 / 1000 = 0.28932007m

0.7188498 × 0.28932007 = 0.207977674455486cm 
= 2.07977674455486mm ・・・・・ 近用ターゲットへの視線のズレ量

4.ほぼ、3で算出した近用ターゲットへの視線のズレ量分を補正した眼球回旋をしていると、考えら
  れます。
  その回旋角度を逆三角関数を用いて求め、とりあいず仮のインセット量を三角関数を用いて求め
  る。(図5)


図5

近用ターゲットへの視線のズレ量分を補正した眼球回旋角度
atan(2.07977674455486 
/ 314.43464) ≒ 0.378968

次に、仮のインセット量を算出します。

  仮のインセット時の眼球の回旋角度
  = (∠O) + (近用ターゲットへの視線のズレ量分を補正した眼球回旋角度)
  = 5.474880.378968 = 5.853848°(マイナスの場合は引き算)

  tan5.853848°= 仮のインセット量/25
  仮のインセット量 = tan5.853848°× 25 ≒ 2.5631477mm

5.4.で求めた仮のインセット量でも、小さな誤差だと言えると思いますが、これだけではプラノ時のイン
  セット位置から変化するインセット量の増減量は、同絶対値度数において同量となり、正確さがやや
  欠けてしまいます。 つまり、4.までで求めた仮のインセット量では・・・

  1.プラス度数では、インセットが広がるに伴い、プラノ時のインセット位置のプリズム量よりも大きくな
    る為、インセット量の増加はまだ不足しています。

  2.これに対し、マイナス度数では、インセットが狭くなるのに伴い、プラノ時のインセット位置のプリズ
    ム量よりも小さくなる為、プラノ時のインセット位置からの仮のインセット量は減少しすぎています。

  極わずかな誤差ではありますが、これらを下記の手順で補正すると・・・

  (1)仮のインセット位置のプリズム量を算出。      
P = 3.00 × 0.2565631477 = 0.7696894431

  (2)近用ターゲットへの視線のズレ量を算出。
視線のズレ量 = 0.7696894431 × 0.28932007
 0.2226866cm
= 2.226866mm

  (3)眼球回旋角度の補正量の算出。
眼球回旋角度の補正量 = atan(2.226866 / 314.43464)≒0.4057619°

  (4)度数をモーラさせた眼球回旋角度を算出。  
眼球回旋角度 = 5.47488 + 0.4057619 = 5.8806419°

  (5)度数をモーラさせたインセット量を算出。
インセット量 = tan5.8806419°× 25 ≒ 2.5749622mm
∴インセット量 2.6mm


例2(マイナス度数編)
度数 = S−3.00

角膜から眼球の回旋軸距離 = 13mm
レンズ間距離 = 12mm
片眼PD = 30mm
近業作業距離 = 300mm

1〜3は、例1と同じ。
4.仮のインセット量を三角関数を用いて求める。
近用ターゲットへの視線のズレ量分を補正した眼球回旋角度
atan(2.07977674455486 
/ 314.43464) ≒ 0.378968

仮のインセット時の眼球の回旋角度

  = (∠O) + (近用ターゲットへの視線のズレ量分を補正した眼球回旋角度)
  = 5.474880.378968 = 5.095912°(マイナスの場合は引き算)

  tan5.095912°= 仮のインセット量/25
  仮のインセット量 = tan5.095912°× 25 ≒ 2.22939mm

5.
  (1)仮のインセット位置のプリズム量を算出。      
P = 3.00 × 0.222939 = 0.668817

  (2)近用ターゲットへの視線のズレ量を算出。
視線のズレ量 = 0.668817 × 0.28932007
 0.193502cm
= 1.93502mm
  (3)眼球回旋角度の補正量の算出。
眼球回旋角度の補正量 = atan(1.93502 / 314.43464) ≒ 0.35259°

  (4)度数をモーラさせた眼球回旋角度を算出。  
眼球回旋角度 = 5.47488 − 0.35259 = 5.12229°
  (5)度数をモーラさせたインセット量を算出。
インセット量 = tan5.12229°× 25 ≒ 2.24099mm
∴インセット量 2.2mm



 上記計算式により、累進レンズにおいて度数と近業作業距離に
よって、どれだけ片眼の輻輳が必要となるか計算したのが下記の表です。
(角膜から眼球の回旋軸距離 :13mm , レンズ間距離 :12mm , PD :30mm , 加入2.00D)

水平経線度数
-6 -3 0.0 +3 +6





20 3.2 3.4 3.7 4.0 4.3
30 2.2 2.3 2.5 2.7 2.9
40 1.7 1.8 1.9 2.1 2.2
50 1.3 1.4 1.5 1.7 1.8